若者離れを考える
パチンコ業界と同じ悩みを抱えている業界がある。
クルマが売れなくて困っている自動車業界がそれだ。昨年の国内新車販売台数は約460万台で、平成2年のピーク時に比べると6割減まで落ち込んでいる。
パチンコ業界も店舗数で見ると平成7年の1万8225軒をピークに、昨年末で1万2368軒まで縮小している。
市場規模が縮小する理由は、景気低迷もあるが、それ以上に深刻な共通のキーワードが「若者離れ」だ。
日本自動車工業会の調査によると、大学生の「興味ある製品」でクルマは17位(20年度)と、40~50歳代が大学生だった当時の7位から大きく後退している。
ちなみに、現在40~50歳代が大学生の時の興味は①ファッション、②国内旅行、③外食、食べ歩き、現在20~30歳代では①パソコン、②ファッション、③通信機器、現大学生では①パソコン、②ファッション、③携帯音楽プレイヤーの順になっている。
この10年ほどでパソコンが台頭してきている。今や大学生だけでなく、パソコンは社会人になってからもビジネスにプライベートに、と必需品でグーグルアースを使えば、居ながらにして世界旅行が疑似体験できる。
若者がパチンコを打たなくなり、クルマを買わなくなった背景には、パソコンの存在があることも否めないが、トヨタ自動車の豊田章男社長は「クルマから離れているのは若者ではなく、私たちメーカーなのではないかと思う」と指摘する。
筆者が青春時代にはスポーティータイプのクルマが若者には人気だった。カローラレビン、スプリンタートレノやシビックタイプRなどがそれで、走る楽しさを追求した。
ところが、自動車メーカーは生産効率を重視するあまり、販売台数が少ないスポーツカーの生産を打ち切ってきた。その代わり売れ筋の1ボックスタイプのファミリーカーに軸足を移してきた。
豊田社長は「メーカーが若者が運転したくなるスポーツカーを販売しなくなったことが、若者のクルマ離れ」と捉えている。自らがレーシングドライバーの豊田社長は「ハンドルを握った時にドキドキ、ワクワクするクルマを作りたい」と12月から世界限定500台販売が予定されている高級スポーツカー「レクサスLFA」の開発・販売の陣頭指揮を執っている。
スポーツカーの復活こそが若者のクルマ回帰につながる、と考えるトヨタは1月に「スポーツ車両統括部」を立ち上げ、スポーツカーの企画開発の最終権限を現場に委譲している。
一方のパチンコ業界は、若者のパチンコ離れに対する具体的なアクションは未だに起こせていない。
パチンコ人口が減っている要因の一つに、メーカーが発売する射幸性の高い機械や価格が挙げられている。
パチンコ業界の主軸はパチンコだ。スロットは若年層に支えられているので、まだ将来性はあるが、彼らはパチンコに興味は示さない。
スロットはコインを投入すればゲームが成立するが、パチンコはスタートに入らないとゲームが始まらない。それまでのムダ球が多い。加えてよく回るから勝てるわけでもない。
パチンコ本来の面白さはヤクモノの動きだったが、液晶に頼り切ったツケがパチンコをつまらなくさせている。
豊田社長の言葉は、そのままパチンコメーカーに置き換えられる。
「ハンドルを握った時にドキドキ、ワクワクするパチンコを作りたい」
そんなメーカーの出現が望まれる。