業界3位キコーナグループがパチンコ専業である理由
市場規模が右肩下がりのパチンコ業界は、コロナ禍とは関係なしに、ホール企業はパチンコに次ぐ第二、第三の柱を求めて新規事業を模索していた。多いのが飲食業で、次にインバウンド需要に対応できる宿泊業に活路を求めたが、コロナ禍はそれらの業種に大打撃を与えることになる。
ホール企業があまり思いつかない新規事業を手掛けたケースがある。都市圏での需要が伸びているシェアサイクルだ。
シェアサイクルとレンタサイクルは似て非なるものである。レンタサイクルはどちらかというと観光地で使うイメージが強い。これに対して、シェアサイクルは電動タイプなので、都心でバス代わりの移動手段として使われる傾向が強い。
レンタサイクルと違ってポート(乗り降りする場所)が一杯あるからだ。シェアサイクルの生命線はいかにポートを増やすかだ。ポートを増やせば増やすほど利便性が高まる。
さらに会社でシェアサイクルを使う動きもある。事務機器大手は経費削減のために社用のバイク、自転車を廃止してシェアサイクルに切り替えている。駐輪場経費を考えるとシェアサイクルの方が安くなるからだ。ビジネスユースはシェアサイクルの追い風にもなっている。
で、ホール企業がシェアサイクル事業を開始したのが4年前のことだった。ポート数も順調に伸ばしていいたのだが、このほど、シェアサイクル事業を売却して手仕舞いしてしまった。
理由は至ってシンプルだった。
客単価は300円ほどで、ポートから自転車を移動させたり、充電の手間暇などの経費を考えると利益がパチンコに比べてあまりにも薄いためだった。
パチンコの売り上げや粗利に慣れきってしまうと、新規事業の利益率の低さになかなか身が入らないのは、今に始まったことではない。業界が儲かっている頃も新規事業に挑戦していたが、投資効率の悪さですぐに撤退して行った過去がある。
大手ホールの中で新規事業には一切手を出すことなく、パチンコ専業を貫くのが関西や関東でチェーン展開するキコーナグループだ。M&Aで拡大する戦略で、10年に30店舗だったのが今や171店舗を数え、瞬く間に業界3位に躍り出た。
では、なぜ、キコーナグループは事業の多角化を目指さないのか? この疑問に同社の前澤酉匡専務は業界誌ピデアのインタビューで次の様に答えている。
「パチンコ以外の事業が悪いという意味ではありませんが、他の事業をやれば、どうしても意識がそちらに割かれます。それが全体からすればわずかな意識であったとしても、そのわずかな意識をしっかりとパチンコ業に向けていれば、もっと何かできるのではないかと思いますし、パチンコ業への熱が抜けていくことが怖いとも感じます。例えばホールオーナーが『この業界は先がないよね』とつぶやけば、その意識は営業現場にも伝わり、『このぐらいでいいや』という気持ちにさせてしまいます。そして、それは最終的には、日々来店されるお客様にも伝わってしまうと思います。パチンコを打たれているお客様の大切な瞬間を我々も真剣に応えていかなければなりません。他の商売を始めてその意識が削がれてしまえば、本業の弱体化にもつながってしまう恐れがあります。当社の本業はパチンコ業でお客様としっかり向かい合いながら今後も進んでいきます」
なかなか説得力がある言葉だ。本業を極められないで他の事業もない、という話である。