はじめは素人でも経験を積めばプロになれる
ホール企業が事業の多角化を進めているのは珍しい話ではないが、これが第一次産業となるとかなりレアケースだ。岡山の成通グループは10年前に農業法人を設立し、無農薬によるいちご栽培を行っている。
目的は「食の安全を通じて地域社会に貢献」することだが、スタートした時は、農業経験者は誰もいない素人集団で、試行錯誤の連続だった。誰でも最初は素人でも経験を積むことでプロになれることを実証してくれるケーススタディーでもある。
いちご栽培は無農薬が軌道に乗るまで5年の歳月を要している。生産量が商業ベースに乗るほども出荷できず、ホールの産直景品として使われていた。転機が訪れるのは元社員が偶然にも無農薬のいちご栽培に取り組んでいたことだ。ここで経験者のノウハウが注入される。
虫と病気。これは自然界を相手にしているのでどうしても避けられるものではない。世の中の菌をなくすことはできない。自然界を敵に回すのではなく味方につける。
菌のタイプは善玉菌と悪玉菌と日和見菌の3つに分かれる。8割は日和見菌で普段は何もしない。農薬を撒いて悪玉菌を退治すると、今度は何もしなかった日和見菌が悪さをするようになる。無農薬農法では菌を安定させ、土の中から元気にさせ病気になりにくい果物を育てることにある。
年間の収穫量は2トンで推移していたが、無農薬農法のノウハウの成果が出た今年は4トンにまで倍増した。さらに来年は6トンの収穫量を目指す。
普通に考えればハウスを増やせば収穫量は自ずと増えるが、ハウスの数は現状のままで収穫量を増やす。
では、どうやるのか?
それは苗を植える間隔だ。これは狭すぎても広すぎてもダメ。後は肥料のバランスと葉の状態を毎日管理することで収穫量を増やすことができるようになった。
これこそが素人集団が10年かかって掴んだノウハウだ。
現在は「紅ほっぺ」と「かなみ姫」の2品種を栽培。無農薬の成果で甘みと酸味のバランスが良く、通常のものよりも傷みにくく、日持ちするのが最大の特徴だ。一般的ないちごは少し青く固い状態で出荷されるが、「完熟」をキーワードに市場を通さず、直接地元のスーパーやショッピングモールなどへ完熟状態で出荷されている。
堂島ロールでお馴染みのモンシェールが岡山へ初出店したカフェダイニング「メルシーモンシェール」のケーキに同社のいちごが採用されている。既存の仕入れルートがあったが、試しに採用してみると「形が良くて美味しい」と注文量も増えている。