中小が生き残るための隙間とは
あるパチンコホールチェーンが地元密着営業を鮮明に打ち出すために、景品を地元の商店から買って、それを提供している。金額的には500円までの端玉景品で、毎月、地域の店舗を開拓して新しい景品にしている。圧倒的にまんじゅうやケーキ、パンなどの食べ物が多いのだが、ホールから歩いて行ける地域の商店街なので、そのうちネタも尽きてくる。
地域の商店に交渉に行くのは店長の役目なのだが、ある店舗の店長が開拓した景品の提供先が、布団店だった。これまで、花屋さんとかはあったが、布団店は異色だった。
で、景品に選んだのはシーツやまくらなどだった。金額にして1カ月で3万円分のそれらの景品が完売した。このチェーン店では会員カードを、景品を提供した店舗で提示すると割引サービスをしてもらえるようにしている。
会員カードを持ってまくらを買いに来たことに何より驚いたのが、布団店の社長だった。
「590円のまくらでしたが、さっそく5%引かせてもらいました。パチンコ屋さんで景品に扱っていただいたおかげで、リピーターになっていただいた。ありがたいことです」と顔をほころばせる。
個人経営の酒店がどんどん店仕舞いした中で、個人経営の布団店も状況は同じ。この布団店も創業44年の老舗店だが、売り上げはピーク時の半分。売上げの柱だったブライダル布団が売れなくなった。家族経営で細々と営業を続けていた。
転機が訪れたのは8年前だった。
「1週間で3人のお客様から『貸布団はないか』との問い合わせがありました。当時、地元に貸布団をやっているところは1軒もありませんでした。これは『行ける!』と直感が働いて始めたのが貸布団業でした」
貸布団が必要な場所をあぶりだした。すると葬儀会社に需要があることが分かった。お通夜で不意に泊まる人が出てくる。葬儀会館では、ある程度布団は常備しているが、それでも足りないケースが出てくる。町の集会所で葬式をする場面では、布団そのものを置いていない。
布団屋の社長が葬儀会社を開拓する時に使ったセールストークがこれだ。
「大手は5時で営業が終わりですが、うちは9時でも10時でも走らせてもらいます」と小回りが効くことをアピールした。その結果、葬儀会社の取引先は30社に増えた。
貸布団業を始めて社員も4人増やした。昼間の配達は社員が担当しているが、夜9時以降の注文は社長のケータイに転送されるので、社長自らが配達に走る。
「幸い、私は酒が飲めないのでいつでもハンドルが握れますから。布団はライトバンに常時積んでいますから、あとは走るだけです」と屈託がない。
貸布団業を始めてから、一般家庭を対象に布団の丸洗いが新たな事業に加わった。貸布団のシーツなどを大量にクリーニングに出すようになってから、丸洗いを安くしてくれるルートが見つかったためだ。
この社長の行動を見ていると中小企業が生き残るヒントがいくつかある。大手と競合しない隙間が自分の土俵になっていることや、隙間ビジネスから派生する新たなビジネスの誕生である。パチンコホールでも何らかの参考になりそうだ。