強さの秘訣はやる気のある人間しか残れない社風
甥っ子(A君)を自社ホールへ就職させることを前提に、ある作戦を考えたオーナーがいる。スパイ大作戦ではないが、甥っ子を大手チェーンへアルバイトでもぐりこませ、教育ノウハウを盗み取ろう、というものだ。
働き始めて半年あまりが過ぎた。
この間、色々なことが分かってきた。アルバイトの研修ですら、一般のホールの正社員教育以上のレベルだった。
お客が押しボタンを押すタイミングを肌で感じ取れるぐらいになるまでの、目配りや、機械の特性も全部説明できるように勉強している。
ホール接客業務はどこも一緒だが、求められるレベル、度合いが一般ホールより、はるかに高い。
大卒の新卒者はプライドを捨て頑張っている。アルバイト感覚の甘い考えの連中は、どんどん脱落していく。
今、A君は脱落組の塀の上を彷徨っている。
辞めたくなっている理由は、いつも最高の笑顔でニコニコしながら、毎日お客に頭を下げることだった。このことに疲れてきた。
オーナーからは協力費として毎月10万円もらっている。A君としてはここが踏ん張りどころだ。この壁を乗り越えなければ、大学を中退したように、中途半端な人間になってしまう。
オーナーとしても、甥っ子といえども、途中で脱落するような人間を採用するわけにはいかない。
オーナーはA君を通して、ナゼ、このチェーンが成長したかを分析してみた。
そして分かったことは「一生懸命やる人間しか残らないから」。
一般的組織はやる気のある人もない人も混ざっている。
伸びないホールは、やる気のない古参社員が幅を利かせ、やる気のある新入社員をどんどん潰していくものだ。
それとは逆のパターンで、一生懸命やる人しか残れない雰囲気が社風として根付いている。
先輩社員は業界トップのプライドと、どんなに素晴らしい会社かをアルバイトにも伝えていく。
それに同調できなければ脱落していく。特に仲間とのコミュニケーションがうまく取れない人は脱落していく。
やる気のないままにホールで働ける環境ではないので、会社の色に染まることが嫌なら辞めるしかない。
辞めた人たちはもっと楽なホールへ行く。
こうしてやる気のある一生懸命な人たちだけの集団が形成されていく。
他ホールとは比較にならない教育を10年以上も続けていれば、後塵を拝するホールからすれば、もはや背中も見えないくらいに離されていくことになる。
その反面、欠点も見えてきた。
業界トップのプライドからか、自分たちのやり方が正しい、と思っていることだ。成功しているから否定できないわけだが、時には地域に合わないこともある。
自社をさらに伸ばしたいと考えているオーナーは、身内をアルバイトで送り込むのも一つの方法かもしれない。
その前に、アルバイトの面接で落とされないように。