温故知新で未来のパチンコ業界を考える
古いものを集めるのが好きだった杉本勇治さん(41)は、約2000台の古いパチンコ台を所有している。特に打つのも好きだったハネモノは、その内の700台あまりを占める。2000台の古いパチンコ台は、4つの倉庫に分散して保管している。
理由は東日本大震災のようなことが起これば、1カ所の倉庫では全滅する恐れがあるからだ。用心の保険を掛けるつもりで、4カ所に分散して保管している。そこまで、古い機械を残すのは、業界の歴史を残す意味合いが強い。
杉本さんは決して業界人ではない。むしろ、打ち手側で、古い台を求めて旅打ちすることが趣味となっていた。そして、集めた古い機械を実際に打てるようにしたのが、9月24日、岐阜県山県市の人里離れた山中にオープンした「岐阜レトロミュージアム」だ。入場料500円払うと、1時間好きな台が好きなだけ打てる。
現在は2000台のコレクションの中から、ハネモノの歴史が分かるシリーズが20台、初代フィーバーやアレパチ、権利モノなど20台で構成されている。
営業許可はゲームセンターの許可をきちんと取っている。出玉はもちろん景品には交換できないが、家族連れや古い台を知っているオールドファンなどで賑わっている。
「色んなコレクターさんがいますが、その人が死んだらほとんどがゴミになってしまいます。ゴミにならない残し方を考えた結果、このミュージアムという方法を考えるようになりました。こうして形に残せば、私の遺志を継いでくれる人によって未来に受け継がれていくことになります。ここにある台をパチンコの文化として残していきたい。残すことが重要なのです」(杉本さん)
本来ならパチンコ業界人がやらなければならないことを、一介のパチンコマニアの杉本さんが個人的に行っている。
ここには昭和時代、パチンコが輝いていた時の歴史が残っているだけではなく、実際に打って当時のことを思い出させてくれる。
液晶機一辺倒になってから、パチンコの面白さがなくなり、単なる数字合わせのギャンブル機となってしまった。そんな時代だからこそ、メーカーの開発陣は元より、パチンコ業界の首脳陣は温故知新という諺があるように、ここに来てパチンコの原点を感じ取って欲しい。
「ホール、メーカーだけでなく、そこにユーザーを交えて3者の立場で定期的に合同会議をする必要があることを今だからこそ痛感しています。そのための協力は惜しみません」(杉本さん)
数ある業界の中でエンドユーザーが置き去りにされている業界も珍しい。それは負けるお客さんで成り立っている業界の特殊事情があるからだろう。
「1時間遊ばせてもらってありがとう。今日は負けたけど楽しかった。その代金に2000円置いていくよ」という姿に戻すためにもユーザーの意見は重要になってくる。