環境が人を変える
70代のおじいちゃんがホールのトイレに入ってかばんを置き忘れた。かばんの中には財布も入っていた。慌ててトイレに戻ったが個室からかばんは跡形もなく消え去っていた。
おじいちゃんはすぐに店長にことの次第を報告した。
トイレ入口に設置されている監視カメラの映像を確認すれば、持ち出した犯人の姿が映っているはずだ。
そんな話をしていたら、ホールに1本の電話が入った。それは盗んだ犯人からだった。犯人自身、監視カメラに映し出されていることに気づいたからだ。
「返したいが、ホールには行けない。外で渡したい」と犯人は懇願した。
「返してもらえるのなら外でもいいよ」とおじいちゃんは快諾した。
外で犯人の男と会った。
「出来心でやったんか?」
「はい。すいません」
男はおじいちゃんにかばんを返した。
実は、財布の中にお札は1枚も入っていなかったのだ。
おじいちゃんはこれに味をしめた。人間の出来心を観察したくなった。わざといらなくなったかばんに、やはりいらなくなった空の財布を入れて、デパートのトイレで実験した。
個室にかばんを置き忘れたふりをして、トイレの前の休憩コーナーで様子を見た。
するとデパートではちゃんと届けてくれた。他のデパートでも実験したら、今回も届けられた。
そのことをホールの店長に話した。
「人は環境で変わる。犯罪を犯さなくてもいいような人が出来心で変わる」
人は環境で変わることについて、さらに話しを続けた。
「パチンコも最初は誰かに誘われてやる。今はその環境がない。周りにパチンコをする人がいないから、やらなくなっている。パチンコ人口が減っているのは、そのきっかけがなくなっているからだ。業界がきっかけづくりをしているとも思えない」
トイレの置き引きからパチンコ人口の減少問題、とすごい展開だが、おじいちゃんの説にも一理ある。
現状の1万円があっという間に消えるような環境で、友達を誘えるわけがない。1時間で2000~3000円遊べて、楽しかった。あわよくば、3000円が1万円になった、というのが友達を誘える範囲の遊びだろう。
業界が巨大化して、ホールオーナーの生活水準が上がって、昔の生活レベルには戻せない、という心理が働いている、とすれば業界は衰退するばかりだ。
この試練を乗り切るにはメーカーを含めてオーナーの覚悟が必要になってくる。