苦情とクレーマーの違い
百貨店の客様相談室で苦情処理を担当していた人が、その後独立して苦情・クレーム対応アドバイザーを行っている。関根眞一氏がその人。
百貨店には34年間在職した。最終の8年間を全国4店舗の客様相談室を担当。こじれた苦情・やくざ・クレーマー・詐欺師等特殊な客を専門に1300以上の苦情を対応した。
苦情処理のプロだが、年間500万円も買ってくれていた客のことを「ゴミ」と言ってのける痛快さがある。只者ではない。
なぜ、500万も買ってくれる客がゴミなのか? 普通に考えればかなりの上得意客のはずだ。
「年間6億円も買ってくれるお客様からしたらゴミですよ」
500万円も買っているのだからと、相当百貨店に対して横柄な態度を取っていたことが推察できる。
苦情のプロはその客がただのクレーマーかどうかを瞬時に見分けて対応する。
ある日「1500円で買った靴下が5日で穴が空いた。1000円にしろ」と売り場で騒いでいた客のクレーム対応が客様相談室に回ってきた。
関根氏は瞬時にこの客を「騙り」=詐欺師と読んだ。
こういう客は怒らせて「怒鳴らせたら勝ち!」だそうだ。
まず、穴の空いた場所を、つま先か、かかとか聞いた。
客は「つま先」と答えた。
間髪を入れず「つま先の上ですか、下ですか」
「上」
「靴はソフトシューズですよね」
「靴下は洗っていますよね」
「5日続けて履いてはいませんよね」
とだんだん相手を怒らせるような質問で畳み掛ける。
まんまと術中に嵌って相手が大声を出すと、それに負けないくらいの大声で、失礼にならないように一発かます。
今までへいこらへいこら対応していた客様係の反撃に、こういう「騙りタイプ」は、シュンとなってしまう。
「今日はいい」
「いいんでしたら、こちらにお名前と住所と電話番号をお書きください」
「もういい」といって立ち上がり、ドアのほうに向かった。
ドアをふさぐ形で客の耳元でこう囁いた。
「これはなかったことでよろしいんですね」
苦情とクレーマーは多少ニュアンスが違うが、まずは相手の言い分を十分に聞くことだが鉄則だ。クレーマーは理不尽な要求をしてくるが、ここを毅然とした態度で対応するのがプロだ。