全員経営で不振店の業績が蘇る
チェーン5店舗を経営するA社が窮地に立っている。起死回生のために1店舗をグランドリニューアルオープンしたのが1年前だった。客離れを解消するためのリニューアルオープンが、経費回収を急いだあまり、客離れを加速させる、という皮肉な結果となった。
1年後の財務が厳しくなった。藁にも縋る思いで取り入れたのが「全員経営」の研修だった。
全員経営とは何か?
それは本部がすべてを決めるのではなく、店舗が主体的に考え、行動すること。そして、問題に対して責任を持って解決できることである。全員経営=現場力を高めることになる。全員経営で何よりも大事なことはスタッフのモチベーションを高めることが大事になってくる。
1年後の財務が厳しくなるまで業績が落ち込んだ組織は、本部と現場の意思疎通も図れず、信頼関係はそこにはなかった。
研修会社は個別に役職者と社員の面接から着手した。面接から見えたことは、社内の不具合が負荷をかけ、お客さんの対応ができていないことだった。また、会社の目指す姿も描かれておらず、具現化もされていなかった。
幹部と社員を交えた研修初日は重苦しい空気のままに終了した。2日目も昼過ぎまで意気消沈したままだったが、場の空気が一変したのは財務の話になった時だった。皆、薄々財務状況が苦しいことは分かってはいたが、具体的な数字が発表され、銀行利息すら払えない状況が1年後には訪れる、ということが分かった時だった。
「来年会社がないかも知れない」という不安が皆の頭をよぎった。
社員の顔色が変わってきた。本気度が少しずつ見えてきた。健全な危機感が芽生えた瞬間だった。
現場は社長の気持ちを汲むことができていなかった。そのため、現場が本当のことを伝えていなかったために、社長の判断が狂った。
研修の課題は社長を交えて理念を具現化することだ。しかし、長年積もり積もった不信感は簡単には払しょくできなかった。グループワークを重ねれば重ねるほど信頼関係がないことが露わになってきた。これが業績結果に大きく影響している原因だった。
この壁を破るために、核心部分に触れる議論を行った。昔話になり、吊し上げになる者も出た。役職者としての自覚と責任がなかった。不満と不信を一度吐きださせることが目的でもあった。
役職者の謝罪の声と共に、社長も放置していたことを謝罪した。雪解けの始まりだ。
言いたいこともいえない環境が払しょくされたことで、建設的な会議になってきた。
店長が戦略を練り、実践してきた結果、1年間の売り上げと利益目標を8カ月で達成することができた。再び、銀行からの借り入れもできる目途がついてきた。
店長は自分の意見を社長に具申するようになった。社長はそれを受け入れ、体制を変更した。その結果、降格になった人が何人も出てきたが、ポストがストレスになっていた人もいた。逆にポストオフになったことで社内が健全になった。